Story of the Caribbean
ハイチのモイーズ大統領暗殺に対する旧英領カリブ海地域の反応

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7月7日の日本時間午後、ハイチのモイーズ大統領が大統領邸で襲撃され暗殺されたというニュースが速報で入ってきました。現地時間の午前1時に事件は起こりました。現職の大統領の暗殺事件ということで、10日現在も、カリブ海地域はもちろん、世界的に大々的に報道されています。

9日の午後には、実行犯28人が容疑者として確認され、そのうち何人かは拘束され、何人かは射殺されたと報道されました。それも容疑者が射殺されたのは大統領邸という報道もあります。現職大統領暗殺を成功させたのにも関わらず、あっけなく容疑者が拘束されたし、しかも背後で手錠をかけられトラックの荷台で移動させられている彼らの風貌は、はっきりいって冴えません。本当に実行犯と確認された28人が、犯人なのでしょうか。誰が何の目的暗殺の指示を出したのでしょうか。謎だらけです。

現職の大統領の暗殺という事件は、カリブ海地域を震撼させています。カリブ海地域の首脳は、自分とモイーズ大統領が映っている写真を用い、哀悼の意を表すと同時に、自分たちの近所に政治的・治安的に激不安定な国が誕生してしまうことは避けたく、オンラインで緊急の会議を行って対応を調整しています。実行犯すべてがハイチ人ではなく、外国人で、そのうちの2人がアメリカ人であることも大きなポイントで、ただ単に気に入らない大統領を暗殺しただけの事件ではないと、カリブ海地域を知る人々は考えています。それらの冴えない傭兵でなく、誰が、何のためにモイーズ大統領を暗殺したのでしょうか。容疑者とされる28人を計画した犯人だと信じる風潮はほぼなく、それら28人やその他の適当な人を犯人に仕立て上げて、すべてをウヤムヤにされるであろうというのが、旧英領カリブ海地域の大方の見方です。正義や真実は追求できないと最初から諦めているのが、カリブ海地域を知る部外者としては、非常に辛いです。

カリブ海地域の国々の中でも、特にアフリカ系の住民が人口の多くを占める国々は、ハイチに憧れを抱いています。フランスという大国から、奴隷蜂起を発端とした徹底的な抗戦を繰り返し、独立を勝ち取ったアフリカ系が治める独立国だからです。私が研究対象にしている元イギリスの植民地だった国々は、ハイチを、貧しいけれど誇り高い、憧れの存在という感じで見ています。ハイチで地震があったとき、ハイチでクーデター未遂がおこったとき、まっさきに支援を表明するのが近所のカリブ海地域の元イギリス領カリブ海の島々です。フランス海外県だったり、旧スペイン領植民地だった島々は、ハイチに対する反応が鈍いです。フランス海外県は、カリブ海にあろうと所詮フランスだし、旧スペイン領にはアフリカ系に対する同属意識に似た深い思いは旧英領ほどないです。

私がジャマイカに住んでいたころ、ジャマイカの東海岸に亡命希望のハイチ人数名が乗った原始的なボートが漂流しました。ジャマイカだって十分に貧しくて余裕はないのに、ハイチ人を送り返すという選択肢を提案する報道は一切なかったのを記憶しています。きちんとしたホテルに収容して、きちんと食事を与えて、体力が復活してから職業訓練学校へ通わせて、ジャマイカ社会に溶け込めるよう様々な工夫をしていたのを覚えています。そこまでするか?というおもてなしを難民相手にしたのは、その難民が憧れのハイチ人だからです。これがトリニダード・トバゴ人やドミニカ共和国人ならば、速攻で送り返していたはずです。この微妙で絶妙なカリブ海のアフリカ系の人々がハイチ人に抱く感情を紐解くのは面白い。。。

と、考えながら、モイーズ大統領暗殺後のハイチ情勢がハイチの主権を脅かすような状態にならないよう、祈るばかりです。